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■ばってん荒川

生まれて初めてナマで見た芸能人は、ばってん荒川さんでした。

いつも境内で野球をしていた神社では、11月にお祭りがありました。
野生の猿が生息していて(遭遇するとマジで怖い)、その昔えらい武将が猿に身を守ってもらったという伝説が残っている神社。
で、神社では今でも猿を祀っています。
お祭りのネーミングも逆らわずに「おさる祭り」。
私はこのお祭りが大好きでした。

祭りのメインイベントはカラオケ大会。
近所のおっさんおばはんが大ハッスル。
ただそれだけで、しかし大盛り上がりで祭りの夜は更けていきました。

そんなある年。
「今年はいっちょなんか大きいことやろうばい!」てな青年団の熱き思いで(おそらくは会議という名で集まった場での酒の勢いで)「芸能人を呼ぼう!」ということになりました。
そしてばってん荒川さんが来ることになりました。

「おらが村に芸能人が来る!!」ということで、界隈では2ヶ月前から祭りの話で持ちきりでした。
「ばってん荒川来たる!」なんてポスターもガンガンに刷られて方々に貼られ、三歩歩けば「ばってん荒川」の文字が目に入るほど。

ときに私は小学1年生。
ただでさえ楽しみなお祭りに、周りの大人たちの落ち着きのなさを感じ取り、この上なくうきうきとその日を楽しみにしていました。

そして当日。
小っちゃな私は、特設ステージ齧り付きの位置に陣取っていました。
後ろの大人たちに押されてとても苦しかったと思うんですが、心が躍りまくりで嫌な記憶はありません。
今か今かと芸能人の登場を待ちます。

そしてついに時は来ました。
青年団一番の調子乗りなおっちゃんがマイクを手にステージへ。
「みなさん、おまたせしました! ばってん荒川ショーです!!」

おヨネばあさんが、軽快な音楽と共に登場しました。
小柄な、かわいいかわいいおばあちゃん。
目尻をくいと下げ、伸びてきた観客の手ひとつひとつを丁寧に握っていきます。

私も手を伸ばしました。
周りの大人よりも遥かに低い位置からがんばって手を伸ばしました。
おヨネばあさんは高いステージの上から、わざわざ腰をかがめて、私の手を握ってくれました。

柔らかく、とても暖かな手でした。
ちゃんと私の目を見て、にっこり笑って握手をしてくれました。

ショー自体の記憶はほとんどありません。
ただ、おヨネばあさんがくるくるとにこやかに踊っていた映像だけが、ぼんやりと脳裏に残っています。

ショーが終わり、神社の石段で、出店で買った焼き鳥を食べていると、同い年のよしひろ君が走ってきました。
「じーちゃんちにばってん荒川がおる!!」

なんだそれは?!
あのばってん荒川がよしひろ君のじーちゃんちに?!?!

言うだけ言って踵を返したよしひろ君の後を追って、私も走ります。
流行る鼓動を抑えられずに、つまづきながら。
焼き鳥はどうしたのか覚えていません。

よしひろ君のおじいちゃんの家は、神社の裏にありました。
神主さんも誰もいない、ただ崩れかけた祠だけが建っている神社なので、普段からこのおじいちゃんとおばあちゃんが神社の神主さんのような役割をしていました。
おそらく、こんな神社に楽屋的な場所がなにもないので、よしひろ君のおじいちゃんちが、このときのばってん荒川さんの楽屋だったんだろうと思います。

おじいちゃん家に駆け込むと、果たしてばってん荒川さんはそこにいました。
玄関すぐの座敷で、よしひろ君のおじいちゃんおばあちゃんとお茶を飲みながら談笑していました。
「どう?」と得意気な顔のよしひろ君。

しかし私は喜べませんでした。
どころか、大ショックでした。
そこにいたのは、おヨネばあさんではなく、化粧を落としたただのおっさんだったから。

あのかわいいかわいい、おヨネばあさんによく似たおっさんが目の前に座っています。
愛想良く、私にも笑いかけたりしてくれています。

こ……これがばってん荒川?!?!
なんか……ちがう。。。。。。

私にとってはそれまで「ばってん荒川=おヨネばあさん」でした。
おヨネばあさんが、ばってん荒川の持ちキャラのひとつだなんて全く知りませんでした。
以前、ドラえもんの声を発する大山のぶ代の姿を見た子供が泣き出したという話を聞いたことがありますが、そのときの私もちょうどそんな気持ちだったんだろうと思います。
泣きはしませんでしたが。

よしひろ君のおじいちゃんの家でもういちどしてくれたばってん荒川さんの握手は、おヨネばあさんのときとは違って硬い男の手という感じがしました。
ただ単に印象の問題なんだろうけど、「キャラによって手の硬さまで変えられるすごい芸人だった」と、きれいな思い出にしておこうと思います。

2006年に亡くなったばってん荒川さん。
“彼女”は、私に夢と現実を見せてくれました。
そして田舎の汚いガキに、とても素敵な笑顔を見せてくれました。

仕事柄、私もたまに握手を求められることがあります。
「目を見て、しっかりと手を握ってくれて嬉しい」と言われたことが何度かあり、ふとばってん荒川さんのことを思い出しました。
たぶん、“彼女”と“彼”がしてくれた握手を、知らないうちに私もマネしてるんだろうなーと思います。


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■コメント

■Re: ばってん荒川 [みさ]

まりちゃん、こんばんは。
私は原田美佐です。
突然でびっくりですかね
ばってん荒川さんがおさるさまに来た時私も覚えていますよ。
公和おじさんと、この前母の葬儀で久しぶりに会いました。。

■Re: ばってん荒川 [岡田真理]

>みささま
みさちゃん!……って呼んでましたよね?
お久しぶりです!
びっくりしました。
見つけてくれてありがとうございます。
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プロフィール

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岡田真理・著
(文藝春秋社)


よくわかる自衛隊 (楽しい調べ学習シリーズ)



志方俊之・監修
岡田真理・文
(PHP研究所)



―岡田真理―
フリーライター。昭和52年生まれ、福岡県香春町出身。同志社大学工学部中退。平成17年、陸上自衛隊予備自衛官補(一般)に志願。50日間の教育訓練を経て、平成19年、予備自衛官に任官。現在も任用継続中。全国の陸海空自衛隊各部隊を取材し、「女子高生にも分かる国防」をモットーに執筆活動を行う。

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