■京都ラーメン戦争

■京都ラーメン戦争

こちらも京都時代のおはなし。

急にラーメンが食べたくなり、近所の隠れた名店へ。
別に隠れてもたいして流行ってもない普通のラーメン屋だが、麺もスープもチャーシューも美味くてネギも入れ放題なので勝手に隠れた名店認定。

店内にはカウンターとふたつのテーブルだけ。
土曜日の15:30。オヤジがひとりで切り盛りしている。
客は私と学生風のにーちゃんの計2名。

でっかい業務用炊飯器の上に神棚のような棚があり、そこに置かれた小さなテレビでは関ジャニ∞がわーわーとしゃべっている。
へ~、関ジャニ∞って25、6とかなんだ~。
結構歳行ってんだなぁ~。
そういや前、地下鉄梅田駅にやけに顔の整った少年の集団がいたな~。
服もみんな揃いも揃って「ダンスとかやってます!」系で。
あれってレッスン終わりかなんかの関ジャニの子らだったんだろな~。

おそらく一生かかっても覚えられないであろう関ジャニ∞の男前な面々を眺めながらラーメン並をすすってると、突然店の入り口が勢いよく開け放たれ、初冬の冷気が舞い込んで来た。

「おはようございます! 新入社員です!!」
店内中響き渡る大声。

驚いて入り口を見れば、黒髪と白髪とどっちが多いかと言えば白髪かな~という感じの団塊世代丸出しのヨレヨレスーツサラリーマンが一名。
明らかに泥酔している。
おいおい、まだ昼だぞ……。
なにがあったんだ??

満面の笑みを湛えたその上機嫌のおっさんは、なにやらしきりに「皿洗い……皿洗い……」と言っている。
オヤジが「?」な顔で応対すると、どうやら皿を洗うからラーメン食わせろと言ってるらしい。
「いや、それはもうすぐバイトの子が来ますんで……」
こんな泥酔者にも誠実な対応をするオヤジ。
このラーメン屋のポイントがまたひとつアップ。

しかし相手は泥酔者。
愛嬌のある目尻をさらに垂れ下げながら、「いや、皿洗い」を繰り返す。
オヤジは諦め「ま、どうぞ」とレジ真ん前見張りには最適!なカウンター席を勧める。

オヤジ、ほんとに皿洗いでラーメン食わす気なんだろうか。
それとも食わせてほとぼり冷めたら110番なんかな?

コップに入れた水を差し出しながら
「で、なんにします?」
とおっさんに注文をとるオヤジ。

「んんんんんんんんんラーメンとおおおおおんんんんんんんん~~~ビール!!」

まだ飲むんかい。
自分が酔うのは楽しいが、赤の他人の酔っ払いは醜いことこの上ないなぁ。

オヤジからビールを受け取り、グビリと一口付けたそのおっさん、やおら懐に手をいれ、ぺらっぺらの財布を取り出した。
店内にいるシラフの3名、計6つの目がそのぺたんこ財布に降り注がれる。

金……入ってんのかな……。

酔っ払い特有のちんたらした動作で財布を広げるおっさん。
財布は二つ折りで、片面には銀行だかなんだかのカードが数枚入っているのが確認できる。

現金は……現金は……??
ドックン……ドックン……
なんの変哲もないラーメン屋に緊迫した空気が流れる。

と、おっさんは五千円札を取り出し、ビールの傍らに置いた。

持ってんじゃん!

しかしおっさんは、その五千円札を愛おしそうに掌で撫で回しながら
「これだけや……もうこれだけや……」
と呟いている。

どう「これだけ」なのか。
「財布にはこれだけ」なのか、「銀行等の預貯金を含めこれだけ」なのか、それとも「職を失い数年後の年金受給までこれだけ」なのか。

しかしラーメン屋のオヤジ、非情にもその五千円札をひょいと取り上げ、チーンとレジを開け、ラーメン並とビール一杯分をすかさず精算。
当然普通は店を出る際の「オヤジ、おあいそ!」で精算なのだが危険度満点のおっさんに対しては相応のスペシャルな前金対応。
経営者としての毅然とした態度にこのラーメン屋のポイントがまたひとつアップ。

泥酔真っ只中のおっさんは店内をひとしきり眺め、「ウチには時計がないねん……」だの「ラーメン美味いか? 鶏ガラか?」など誰に話しかけるとも無く呟いている。
ちなみにここのラーメンは鶏ガラでなく醤油豚骨だ。

ラーメン並を食べ終えた私が、一服の肴におっさんの呟きに耳を傾けていると、「なぁ……タバコなんか吸ってんと……」という呼びかけが含まれているのに気付いた。
店内でタバコ中なのは私一人。
あ。このおっさん、私に話しかけてる。

できればここでこのおっさんの相手をしてあげたいのだが、どうしてこんな時間から泥酔しているのか、どうして家に時計がないのか、などなどの質問でこのおっさんの相手をしてあげたいのだが、残念ながらこっちは一滴の酒も入ってないのでそんな優しさは持ち合わせていない。

適度な酒でも入っていれば、私も飲み屋の店員に「にーちゃん男前やねぇ。アンジャッシュのつっこみに似てるって言われない?」とかおばはん丸出しで話しかけて店員にすこぶる迷惑そうな顔で「言われません」と棒読みで返されたりもするのだが、残念ながら今はド素面。

おっさんの「なぁ……なぁ……」のつぶやきを聞かないようにしながら、「タバコ+ラーメンの汁」というこの世で最も美味な組み合わせに全神経を集中する。

一方、この騒乱の最中、全く気配を消してひたすら自らの食事に没頭していた学生風のにーちゃん。
泥酔の団塊おっさんには我関せずの姿勢を貫き、「からあげセット……ちょうど千円ね」とオヤジに千円札を渡し、店を出てった。
「ありがとうございま~す!」とオヤジ。
やや遅れて「ありがとうございま~す!」と泥酔のおっさん。

おっさん、皿洗いするからってもう店員気分なのか。
つーか金は払ってんじゃないか。
払ったというかもぎ取られたというか。

おっさんがこのあとどうなるのか、金を払ったというのにやはり「皿洗い……」と洗い場に入り込もうとするのか、などなどこの顛末の行く末を見届けたかったが、さすがに飽きたので席を立つことにした。

ラーメン並の料金を払い、「ごちそうさまでした~」と店を出る。
「ありがとうございま~す!」とオヤジ。
しかししばらく耳をそばだててもおっさんからの「ありがとうございま~す!」は聞こえなかった。

ちょっと寂しかった。


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プロフィール

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岡田真理・著
(文藝春秋社)


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志方俊之・監修
岡田真理・文
(PHP研究所)



―岡田真理―
フリーライター。昭和52年生まれ、福岡県香春町出身。同志社大学工学部中退。平成17年、陸上自衛隊予備自衛官補(一般)に志願。50日間の教育訓練を経て、平成19年、予備自衛官に任官。現在も任用継続中。全国の陸海空自衛隊各部隊を取材し、「女子高生にも分かる国防」をモットーに執筆活動を行う。

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