■自衛隊は人殺し?

■自衛隊は人殺し?

私は小学校で、「自衛隊は人殺しだ」と教わりました。
とても素直な子供だったので、「そうなんだ。自衛隊は人殺しなんだ」と思いました。
でも、友達のお父さんが自衛官で、その子の家へ遊びに行ったときに会ったお父さんはとても優しくて私にも親切にしてくれて、「自衛隊=人殺し」という図式は上手く描けずにいました。

小学校では、「墨塗り教科書」のことも教わりました。
「戦争が終わって、これまで子供に教えていた間違ったことは墨で全部消されました。当時の先生たちは『これでやっと、子供たちに間違ったことを教えなくて済むようになった』と喜びました」
と教わりました。

家に帰った私は、おばあちゃんにその話をしました。
おばあちゃんは、戦前~戦中~戦後と、私が通っていた小学校で教師をしていました。
まさに、「子供たちに間違ったことを教えなくて済むようになった」と喜んだ先生でした。
だから、おばあちゃんも「喜んだ」んだろうな、と学校で教わった話をしました。
するとおばあちゃんは
「誰がそんなこと言うたかね!!!どの先生かね!!!」
と超怒髪天でした。

当時は子供心に「なんか触れちゃいけない話らしい」とそれ以上はつっこまずにいましたが、大人になり、おばあちゃんにもう一度聞いてみました。
「教科書に墨を塗ることになって、どう思ったの?これまで教えていたことが全否定されて、どんな気持ちだったの?」と。
おばあちゃんは遠くを見つめて、しばし沈黙しました。
そして少しうつむき、静かにゆっくりと言いました。
「そりゃあ……敗戦国のみじめさよ」。

教科書の文言を墨で消すようお達しがあり、喜んだ先生もいたのかもしれません。
でも、「敗戦国のみじめさ」を感じた先生もいました。

同じものを見ても、同じことをしても、感じ方は人それぞれです。
人それぞれ、別々の脳ミソを持っている以上、それはしょうがないことです。

ので、自衛隊が「人殺し」に見えてしまう方がいるのもしょうがないことなのかもしれません。

6月に、ある国会議員が「防衛予算は人を殺すための予算」と発言しました。
そして先日も、「陸上自衛隊は人殺しの訓練」と書かれたチラシが新聞で取り上げられました。
(参考:http://www.sankei.com/west/news/160720/wst1607200007-n1.html

このチラシは、私も以前から目にしていました。
奈良県は日本で唯一、陸上自衛隊の駐屯地が存在しない都道府県です。
ので、奈良県のある自治体が、駐屯地の誘致活動をしている……という話は、数年前から耳にしていました。
「災害や防衛の初動を考えたら、誘致したいって気持ちになるだろうなぁ」と思っていました。

すると、「自衛隊の誘致反対!」という声も上がりました。
そこで配られたのが、この「陸上自衛隊は人殺しの訓練」のチラシです。

「自衛隊は人殺し」。
昔ほどひんぱんには聞かなくなりましたが、でも今もやっぱりこういう声があります。

先ほども言ったように、「同じものを見ても、同じことをしても、感じ方は人それぞれ」です。
自衛隊が人殺しに見えてしまう方もいるでしょうし、そうでない人もいるでしょう。

では、「自衛隊は人殺しなのかどうか」。
前置きが長くなりましたが、今回はこのお話です。

自衛隊の任務は、ざっくり言えば「日本を守ること」です。
日本が武力攻撃を受けたら、それを排除します。
武力攻撃を排除するために、法的な手続きを経た上で武力を行使することもあります。
武力攻撃を仕掛けてきた国や組織がそれで止めてくれるといいのですが、そうはいかない場合もあります。
すると、武力が衝突し、戦闘が起こります。

この戦闘は「負け」が許されません。
押し負けると、日本が武力攻撃を排除できず、たくさんの人命や土地、財産が被害を受けます。
ので、ちゃんと武力攻撃を排除できるよう、戦闘の訓練を行っています。

戦闘では、身の危険を伴います。
自衛官も、相手側も、身の危険を伴います。
この「相手側の身の危険」から「自衛隊は人殺し」という結論が導かれている……おそらくは、そういうことなんだろうなーと考えています。

ですが、自衛隊や個々の自衛官の目的は「任務の遂行」です。
「日本を守るための任務を遂行すること」が目的です。
「人を殺すこと」ではありません。

人は誰でも自分を殺されたくないし、人を殺したくありません。
それは自衛官も同じです。
「自衛官」というと、なにか特殊などてらい人を想像する方もいらっしゃいますが、みなさんフツーのおにいちゃんおねえちゃん、おっさんおばはんです。
くだらないお笑い番組で笑い転げりゃ、失恋で泣きもします。
タンスの角に足の小指をぶつけて悶絶もすれば、マヌケな顔で屁もこきます。
みなさんと同じ、フツーの人です。

私は予備自衛官で、銃を扱う訓練なんかを受けています。
もし万万が一のことが起こって、なにかの状況で必要となれば、引き金を引きます。

……言うのは簡単ですが。
すっっっっっっっっっげー勇気いりますけど。
「勇気」じゃないな。
なんだろう。

いくら、自分の目の前にいるのが日本の安全を脅かす人物で、国民の生命と財産を損なう人物で、法的に問題のない命令のもとで撃つ、となっても、やっぱり「人を殺すことになるかもしれないこと」ってのは……やりたくないです。

正直に言えば、逃げたいです。
私の身の安全がどれだけ保障されていようが、逃げたいです。
危険だから逃げたい、というんじゃなく、逃げたいです。

殺したくないですよ。そりゃ。
向こうにだって親はいるだろうし、愛する人だっているかもしれない。
そこまで考えなくても、自分の撃った弾で誰かが死ぬかもしれない……ただそれだけで絶対イヤです。
逃げたいです。

でも、私は予備自衛官です。
招集がかかれば「自衛官」となります。
国民の税金で手当てをもらい、税金で作られた場所で訓練を受け、税金で作られたごはんを食べています。
国民の生命と財産を守るために。
そのために、引き金を引かなきゃいけない状況になったら……。

言ってしまえば「人殺し」かもしれませんが、フツーの人が「人殺し」になるの、すごくすごく難しいです。

誰も戦闘なんかしたくありません。
みんな家で家族に囲まれて笑顔で暮らしたいです。
自分にも相手にも身の危険があるような戦闘なんかしたくありません。

でも、国民を守るためにそうしなければならない状況になってしまったら……。
自衛隊は、任務を遂行します。
守るべき国民から「人殺し」と罵られても、任務を遂行します。

おそらく、ほとんどの自衛官は多かれ少なかれ同様の葛藤を抱いていると思います。
国民を守るための任務なのに、その国民から「人殺し」と罵られてしまう……。
でも、それ自体は辛いながらもまだ耐えようとすると思います。

しかし、それが家族に向けられたら。
もし、我が子が「人殺しの子供」と罵られたら。

……こんな不安が頭にちらつきながら、適切に任務を遂行できるでしょうか。
「国民を守る」ことが、正しく実現できるでしょうか。

自衛隊の任務について、いろんな考え方はあると思います。
でも、私の個人的な思いを言わせて頂ければ「自衛隊を人殺しと罵ることは、絶対に辞めて欲しい」です。

自衛官のためにも、そのご家族のためにも。
そして、日本や国民がちゃんと「守られる」ためにも。

自衛隊や日本の安全保障についての議論は活発であって欲しいです。
でも、「人殺し」などのショッキングな言葉を使って人々に持論をゴリ押すのではなく、正しく建設的な議論が交わされることを、心から強く強く望みます。


スポンサーサイト

プロフィール

okadamari

Author:okadamari

>>質問大募集!!







岡田真理・著
(文藝春秋社)


よくわかる自衛隊 (楽しい調べ学習シリーズ)



志方俊之・監修
岡田真理・文
(PHP研究所)



―岡田真理―
フリーライター。昭和52年生まれ、福岡県香春町出身。同志社大学工学部中退。平成17年、陸上自衛隊予備自衛官補(一般)に志願。50日間の教育訓練を経て、平成19年、予備自衛官に任官。現在も任用継続中。全国の陸海空自衛隊各部隊を取材し、「女子高生にも分かる国防」をモットーに執筆活動を行う。

ブログ内検索

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

もくじ